追悼:三本和彦さん
皆さまおはようございます。
先日とっても辛い知らせが飛び込んできました。
モータージャーナリストの三本和彦がご逝去されたとのこと。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
今日は三本さんのことについて思いつくまま書いてみたいと思います。
そもそも私がクルマを好きになったきっかけをくださったのが三本さんでした。
テレビ神奈川の超長寿番組『新車情報』を何気なく見始めてから、私の中では毎週毎週観ている当たり前のおじさんという存在になっていきました。
多くの自動車評論家と言われる人たちは、メーカーの代弁者となり、当たり前ですが基本的にはどんな車も良いところばかりを記事にします。
最後の何行かだけ、〇〇だけがちょっと気になるところ、ここは年次改良やマイナーチェンジに期待したいですね!で〆て終わりです。
ところが三本さんはいつも直球勝負!
自動車はこうあるべき!という信念や想いがしっかりあるので、決してブレません。
クルマは社会と調和しながら、機能的かつ安全なものであるべきという想いが根本にあって、常にその視点から、自動車メーカーの開発責任者の人たちと対峙します。
自分の中で和思い出に残る会をご紹介します。
記憶の中で書いているので、言葉尻が異なっているのはご容赦ください。
・初代プリメーラの回
開発責任者の津田さんとのやり取りがとても印象的な回でした。
この頃の日産自動車はとても勢いがあり、ヒット車を連発。トヨタをある意味脅かす存在になっていたころです。
日産がいよいよ本気で世界戦略車を出してきたことで三本さんはとても嬉しそうでした。『何となくジャガイモとソーセージのにおいがしますねぇ。』とドイツ車を徹底マークして開発してきた津田さんの想いを汲んで、技術的な話を楽しそうに展開します。フロントマルチリンクサスペンションやシートの硬さ、トランクリッドのダンパー機構の話など、話は尽きません。
トランクのパンタグラフに関しては、ずっと言っていて、アーム式だとトランクのものが押されて潰れてしまう、だからパンタグラフの方が合理的であると言う一貫した考えがおありでしたね。
あっという間に時間が過ぎてしまう、楽しい回でした。
私個人的には、日本車が欧州車のレベルに到達してきたことを感じる回で、最も好きな番組のひとつです!
・ダイハツ ストーリアの会
開発責任者の相坂さんをお迎えして、久しぶりの小型コンパクトカーの登場を歓迎している三本さん。関西人の相坂さんをからかいながら、でもまじめなダイハツという会社への敬意を払いながら進め行く流れでした。
印象的なのは、内装を紹介するシーン。
シート表皮の柄を『毒マムシの背中』と形容し、当時の国産車のシート柄には反対!という姿勢を明確に伝えてられていました。
シート表皮の材質もストーリアはまだよかったですが、起毛したモケット風のものが大嫌いだった三本さん。『コリッとした平織りの生地がいいですね。』といつもおっしゃっていましたが、確かに今の車は結果的に三本さんのおっしゃるとおりとなりました。平織りファブリック生地のシートは静電気も起きづらく、お尻の位置を微調整することもできるので合理的ということですね。
また、お互いヘビースモーカーの三本さんと相坂さん。リアクォーターガラスを換気のために運転席からのレバー操作で開閉できるように提案されていましたね。サンルーフだと高くつきますし、重量も重くなるため知恵を絞った三本さんらしい提案でした。
初代ダイハツシャレードのような世界に通じるコンパクトカーの開発をダイハツに期待している様子が伝わってきましてね。まじめなダイハツのことがきっと好きなんだろうと感じる回でした。
・初代スバルフォレスターの回
かなりの神回ですね。今日のSUV全盛時代を予言している三本さん。『やがて四輪駆動のクルマというのはみんなこんな風になるんじゃないかと思いましたね。』すごい!
開発責任者滝沢さんと実験部小荷田さんをお迎えし和やかに進行していきます。
不出来な頃から知っている三本さんとしては、今日のスバルの四輪駆動システムはとても素晴らしい出来栄えと評価できるのでしょう。
ターボチャージに関しては、一長一短の評価ですが、クルマ全体の出来栄え、特に乗り味や運転のしやすさなどに関しては絶賛されていますね。また窮屈なクルマが嫌いな三本さんからすると、自然でアップライトな姿勢で運転できるフォレスターはとても気に入っているように見えました。
また後半で印象的なのは、実験部小荷田さんとのやりとりです。『実験部はもっと力を持って、開発の言いなり、下請けじゃダメなんじゃないですか?』と直球を投げ込みます。小荷田さんはたじたじですが、本当に核心をつく発言で、実験部がもっと発言力を持ってクルマ作りをリードしてほしいという思いがよく伝わってきました。
結果、フォレスターは今日まで大ヒットを続けるスバルを代表する名車となりました。
三本さんの先見性のすごさを感じる神回となりました。
杓子定規に進む番組が多い中で、三本さんの新車情報は「偉大なるマンネリ」と自認される長寿番組となりました。番組の構成は最初から最後まで変わらず、しかし三本さんの巧みな話術で視聴者を飽きさせないのは本当に素晴らしかったです。
三本さんは自動車評論家と呼ばれることを嫌っていたように思います。
単に車を批評するのではなく、クルマと社会の関係はどうあるべきかというベースがあるので、モータージャーナリストと自動車評論家は明確に異なるものだと考えておられたのでしょう。「クルマから見る日本社会」という岩波新書を出されておりますので、この本を読むとよくわかります。
さてこの先三本さんに肩を並べるモータージャーナリストは現れるのでしょうか。三本さんのご意志を継ぐ方が出てくることを願いつつ、三本さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
ありがとうございました。